期限の利益を喪失
大変です。期限の利益を喪失したという内容証明書が届いたのですが、どうしたら良いでしょうか。
と慌てて相談をされる経営者の方がおられます。
期限の利益喪失については、金融機関から融資を受けるときには必ず契約書に詳細が記載されているのですが、書かれている内容を見ることもなく、ただ単に借りるお金のことばかりに気を取られている経営者は少なくありません。
今まで経営危機に陥ったことがない社長の中には、期限の利益という言葉さえ知らない方もおられます。
銀行や信用金庫などの金融機関は、中小零細企業にお金を貸して利息を得ることが本業です。
しかし、もしも貸したお金を返して貰えなくなったとしたら、その貸付金は不良債権となるため、金融機関は基本的規範である契約に則った対応をしてくるようになります。
地方銀行などでは、本来であるならば、その地域の中小零細企業を支援していくことで経営が成り立っているのですから、経営危機に陥っている事業者を救済するべきと思うのですが、実際はあらゆる手段を使って債権回収を始めてきます。
債権回収の取り組み方については、各金融機関において様々であり、また、同じ金融機関であっても交渉担当者の性格や考え方、意欲などにより異なることもあります。
金融機関の立場からすれば、融資をしたお金の元利金は契約通りに返済すると合意したのだから、約束したとおりに返済ることが当然だと言います。
もちろん、それは当然のことであり、借りたものは返さなくても良いなどという人は誰もいないはずです。
ですが、現実的に支払いができなくなってしまったのであるならば、何が何でも契約書のとおりにと言っても無理なことなので、そういった場合には期限の利益を喪失することになり、契約書に記載されているとおりに物事を進めて行くことになります。
一般的に期限の利益を喪失した後は、契約とおりの元利金の返済ではなく、残金を一括で弁済しなければならないとなっているはずです。
しかし、分割で支払いできないものが一括で弁済などできる訳がないので、到底無理な条件となります。
契約内容にもより異なりますが、信用保証協会の保証付き融資であれば保証協会が代位弁済をおこなうことになります。また、プロパー融資であれば金融機関が債権回収を試みたりサービサーへ債権を売却することもあります。
その何れにしても、債権回収手段の究極は債務者が恐れる強制執行という差押えです。
不動産があれば競売であったり、預金口座や自宅などの動産の差し押さえなどです。
これら一連の流れや手続き、手段、方法などにおいては、あらかた予測することは可能であるので夜眠れないほど悩まれる必要はありません。
金融機関が先ず第一に知りたいことは、債務者に返済財源があるのか否かということなのです。
つまり、経営者の「弁済する意思」と「弁済する能力」を正確に知り、それにより対応方法を決めていくことになります。
多くの場合では、経営者の「弁済する意思」は十分あるのですが、実際は「無い袖は振れない」という状態に陥っているのですから、意思はあっても能力が無いということがほとんどです。
しかし、金融機関はこのまま放置する訳にはいかないので、当然何らかの手立てはしなければなりません。
本来、解決するにあたり、ギブアンドテイクとかウインウインの関係になれて債権債務の落としどころを話し合えれば良いと思うのですが、残念なことに債務者と債権者は利害が相反する関係にあることや、株主や他の貸出先の手前、出来ることと出来ないことがあるので、簡単には処理することができない事情もあるのです。
それでも金融機関にとっては自ら企業の首を絞めるようなことはしたくないハズですから、返済は契約通りに行ってくださいと言いつつも、早く自ら経営継続を断念してくれないかなと思っていることでもあるので、本音のところは不良債権を早く処理したいと思っています。
信用保証協会付き融資は別としても、プロパー融資であるならば体力の乏しい地方銀行などでは出来ることなら少しずつでも返済して欲しいと考えています。
しかし、これはどうやっても回収できる見込みが無いという判断をすれば債権譲渡を行なうようになるのです。
即ち、期限の利益を喪失したということは、債務が減ったり無くなったりする方向へ一歩進むことができたということなので、債務者にとってはありがたい喪失になることがあります。
このように受け取り方によっては悲観的なことではなく返って嬉しい話であったりもするので、状況によっては債務者にとってメリットとなることも珍しくありません。
但し、ネットで調べた程度で調子に乗って軽く考えていると痛い目に合わされることになるので、安易な考えと行動は留意しなければなりません。
「用心」こそ、この厳しい社会で生き抜いていくために必要であって、自分自身の身を守っていくための肝要です。
刻一刻と形を変える見えない相手に、如何なる手を打っていくのか絶え間なく知恵を振り絞ることが大事なのかも知れません。